29 命の木

椋鳩十の略歴

椋鳩十(1905-1987)
長野県生まれ。小説家。児童文学作家。
鹿児島県で,高校教諭,鹿児島県立図書館館長などを務め,1950(昭和25)年「片耳の大鹿」を出版。自然や,そこに生きる野生動物をテーマに多くの作品を残した。「大空に生きる」「マヤの一生」「モモちゃんとあかね」など多数の著書があり,「大造じいさんとガン」の作者としても知られる。

椋鳩十(撮影:伊藤英治)
〈写真提供/喬木村 椋鳩十記念館〉

「片耳の大鹿」(あらすじ)

屋久島の鹿狩り名人といわれている吉助(よしすけ)おじさんに誘われて,僕は島を訪れた。狩りのため,冬の山に入った僕たちは,道中,片耳の大鹿に率いられた鹿の群れに出会う。片耳の大鹿は,かつて猟師にいっぽうの耳を鉄砲で撃たれ,片耳になった鹿で,猟師仲間で知らぬ者はなかった。僕たちはその群れを追うが,途中,激しい風雨に襲われる。何とか,がけの中腹にある洞穴にたどり着き,体を必死で温め合うが,冷え切った体はなかなか温まらない。
死を覚悟した僕たちが,ふと,周りを見ると,そこには30頭近くの鹿が身を寄せ合っていた……。

「大造じいさんとガン」(あらすじ)

翼に真っ白な混じり毛のある,「残雪」とよばれるガンがいた。
狩人の大造じいさんは,毎年,沼地に飛来するガンを狙っていたが,残雪が群れを率いるようになってから,ほとんど獲ることができなくなっていた。わなを仕掛けても,ことごとく残雪に見破られてしまうのだ。
今年こそはと,じいさんは,一羽のガンをおとりにして,群れのガンを撃とうと考えた。そして,じいさんが,作戦を実行しようとしたその瞬間,群れをめがけてハヤブサが現れた。ハヤブサは,逃げ遅れたおとりのガンを襲った。そのとき,残雪がガンを助けるため,ハヤブサに挑みかかった。じいさんは,とっさに銃を構え,残雪に狙いを定めた……。