第5回 | 日本の巨獣はなぜ消えた?

 国立科学博物館の2014年夏の特別展「太古の哺乳類展」は,日本で発掘された絶滅哺乳類が一堂に会する希有な機会だ。それにしても,本当にかつての日本にはいろいろな動物がいたものだ。

 化石記録があるかぎり集めてあるわけだから,たとえばゾウにしても数百万年前のミエゾウや,もっとまえのゴンフォテリウムもいて,進化の不思議に思いをいたす。

 と同時に,なぜ,今,こういった動物たちがいなくなったのか,という疑問を抱く。2万年から3万年前までは,ナウマンゾウのような「超大物」の他にも,ヒョウやオオツノシカやヘラジカやバイソンなど,巨大動物相があった。北海道にはマンモスもいた。もちろん,今の日本列島にも,シカやツキノワグマやヒグマ(北海道)やキツネやタヌキやニホンザルもいるわけだが,この特別展で見るものに比べると小振りだ。かつての動物相と肩を並べられるのはせいぜいクマくらいだろうか。

 では,なぜ?

 どうして,かつての巨大哺乳類たちは消えてしまったのだろう。

マンモスのシール

「ええっと,これ,まずはアメリカの話からしてもいいですか。」と冨田さんは前置きして,この手の話題でよく引き合いに出される南北アメリカから説き起こしてくださった。

「北アメリカと南アメリカでは,いろんなゾウもいたし,大きなラクダもいたし,ウマもいたし,オオナマケモノもいました。それらがほとんど,今から1万1000年前ぐらいにバタバタッていなくなるんです。それが我々哺乳類化石の世界では七不思議の一つになってまして。」

 有力な仮説は二つあるそうだ。

「一つは,最後の氷期が終わると急激にあったかくなりますから,その環境変化が問題だったのではないか,と。だけど,もし環境変化だとしたら,大型動物だけが絶滅するのはおかしいじゃないかと。というのは小型哺乳類,具体的にはネズミとかビーバーとかですが,ああいうちっちゃいやつがどれだけ減ったかっていうと,5%から10%ぐらいなんです。一方で,大型哺乳類は70%ぐらい絶滅してるんですよ。環境変化説は,これを説明しなきゃならない。」

 ここでいうパーセンテージは,種の数で計算している。北アメリカの化石は非常に良く調べられているので,こういった数字を出して意味がある程度には信頼できるとされているそうだ。

「もう一つは,人が狩ったせいだ,という説ですね。オーストラリアでは,5万年前にアボリジニの祖先がやってきて4万5000年くらい前にバタバタッと大きな哺乳類がいなくなった。だから,やっぱり南北アメリカも人間のせいでしょっていう意識が強いんです。ただ,ネイティヴアメリカンの祖先がアジアからアラスカに渡ったのは,3万年ぐらい前。それは氷河時代の真っただ中なので,南に進めたのは,今から1万2000年ぐらい前なんです。南へ下ってきた人間がほんの少し来たからといって,1000年後の1万1000年前にすぐに狩り尽くすっていうことは不可能ではないかっていう疑問が出てきます。」

冨田先生

「さらにユーラシア大陸との比較です。新大陸で大型動物が70%絶滅したのに,旧大陸では20~30%なんです。ユーラシア大陸では,人間と大型動物はずっと前から共存してきてて,お互いに相手がどれぐらい怖いのか,あるいは人間側から見れば,どれだけ殺したら絶滅してしまうのかっていうのは感覚的にわかっていたので,狩り尽くすなんてことはなかった。むしろ,環境変動の方が大きかったのでは,と言われます。アメリカ大陸での絶滅が人間のせいだとしたら,人間たちが食料のためだけに殺したんではなくて,狩りをすること自体をエンジョイしちゃったんじゃないかって話まで出てきます。」

 ここまで来ると,かなり「解釈」の問題も入ってくる。

 結局,よく議論されるアメリカ大陸の大量絶滅について,環境変動か人為的なものか,というのははっきり分からない,というのが現状のようだ。狩猟圧(注:狩猟が野生動物に与える影響のこと。)の影響は大きかったかもしれないし,それほどでもなかったかもしれない。「人か環境か」という問いの立て方自体が,適切でない可能性もある。直接見ることができない過去のことを議論しているわけで,環境変動,人による影響,あるいはその他の要因がどれだけ効いたのか,出来るだけ定量的に語れる指標を見つけつつ,これからも議論されていくだろう。

 さて,ここまでが,1万年から2万年前にあった哺乳類の大量絶滅の概観。

 では,日本ではどうなのか。

 実は,こと「日本の大量絶滅」については,もう少し単純に説明できるのでは,というのが冨田さんの立場だ。

「新版 絶滅哺乳類図鑑」(丸善)
「哺乳類」の進化の歴史を,簡潔な解説と精密な復元図(283種)や解説イラストなどとともに紹介した「新版 絶滅哺乳類図鑑」(丸善)は冨田さんの代表作のひとつ。

「日本で今まで化石の年代を調べるのは結構難しくて,特にアメリカでやってるような1万1000年とか,1万500年とかっていう,そういうレベルの正確な年代って測定されてこなかったんです。予算的な問題,それから良いサンプルがないと正しい答えがでないという問題。でも,いろんな人が試みてはいて,その最新の成果が2012年に論文にまとめられました。首都大学東京のいわあきら先生たちの研究です。その結果を元に考えると,実は日本の大型動物の絶滅っていうのは二つのフェーズがあったという話になるんです。」

道具

 二つのフェーズというのは,別々の時期に別の理由で絶滅した2群の動物がいるということだ。

 一つは,ナウマンゾウに代表される,ナウマンゾウ・ヤベオオツノジカ動物群と呼ばれるもの。これは本州側の温帯地域に住んでおり,暖かい時期には北海道に渡ったこともある。一方で,寒い地域から北海道に入ってきた,マンモス,ヘラジカ,バイソンなどのマンモス動物群。マンモスは北海道から本州には渡らなかったが,ヘラジカ,バイソンは寒い時期に本州に進出した。同時代的にはこれらの二つの動物群が地域ごとにすみ分けていた。

「いろんな動物の年代で信頼できるものだけを調べていくと,一番最後のナウマンゾウが2万3000年前ぐらいまでなんですね。一方で,マンモスで1万5000年とか1万6000年前とか。バイソン,ヘラジカなんかはもっと新しい年代が出てます。で,どうもナウマンゾウは最後の氷期のピークに向けてどんどん寒くなっていた2万3000年ぐらいから2万年前あたりに絶滅したんじゃないか,と。そして,1万9000年前に氷期がピークになった後,1万6000年前ぐらいまで寒いんですが,その後ガーッと暖かくなってますから,そのときに逃げ切れなかったマンモス動物群はそこで絶滅したし,サハリンを通って北へ逃げることができた連中は逃げちゃったのかもしれないという話なんです。」

 これが2フェーズの絶滅の説明だ。

 氷期がピークに向かう時に,ナウマンゾウ・ヤベオオツノジカ動物群が滅び,氷期のピークがすぎて急激に暖かくなる中で,マンモス動物群が滅んだ。環境変動によって,ふるい落とされた,ようなイメージである。

 日本というとても局地的な島々にだけ着目しているので,この場合は,移動していなくなるのも,化石研究の観点からは「絶滅」に見える。いずれにしてもナウマンゾウもマンモスもその後,世界中から姿を消すわけではあるが,こと日本の大型哺乳類の絶滅は,人が狩り尽くしたよりも,環境変動の方が大きく効いてることは間違いなかろうと,今は多くの研究者が思っているとのこと。

 もちろん,人間が,残っていた最後のマンモスを狩って,その地域からはマンモスはいなくなった,というような個別のケースは充分有り得る。でも,それを我々が知ることはできないし,「最後のマンモス」に至るまでに,環境変動が大きく効いていたというのが有力,ということだ。

 大量絶滅をめぐっては,よく「人間の罪深さ」が語られることが多い。しかし,妙に教訓を引っ張り出すよりも,まずは現象を理解しようといった姿勢を,冨田さんの語り口から感じるのだった。

冨田先生